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「おーうぇん」
マリアが口を開いた。
「オーウェン、オーウェン、来てくれたのですか?」
「まあ、そうだな。お前のためってわけでもないが」
「そういうのをツンデレというのですよ、オーウェン」
「お前の耳に妙なフィルターがかかっているからそう聞こえるんだ。一度ゆっくり医者に見て貰うことをお勧めする」
「辞退させて貰うのです」
加害者と被害者の会話からはかけ離れていると思う。立会人の目が点になっていた。
「オーウェン、私はまだオーウェンのことが好きなのです」
点になっていた立会人の目がたちまち引き締まった。恐らく、そういうことを言ってはいけないのだろう。彼が制止しようと一歩踏み出したところで、上司と目が合った。上司が声を出さずに何か言う。黙れとか、そういった類の言葉だろう。萎縮してしまった。これでしばらく彼は行動不能だ。
「オーウェン」
「俺はお前のこと好きじゃないし愛してるとかそれに類する言葉とかは絶対言わないからな」
「先手を打たれたのです。オーウェン、やはり私と一緒にいるのは嫌なのですか?」
「世間一般の常識人の視点、つまり俺の視点から見れば、嫌だ」
「オーウェンは、私のことは、嫌いなのですか?」
「包丁でもって拉致監禁された挙句の熱烈な求愛行動の末に餓死しかけたことを考えると、世間一般の常識人はどう思うか分かるだろ?」
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