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実際のところ、嫌いなのかと聞かれたら素直に嫌いとは言えない。好きじゃないことは確かだが、嫌いかと言われれば首を傾げてしまう。俺も一般人には程遠いってことか。
「私は諦めないのです」
マリアがぽつりと呟いた。無表情、無感情、無防備。怒り狂ったりだとか涙ぐんだりだとかといった変化は見られない。
「私は、この箱庭に何年も閉じ込められることになるそうなのです」
それを理解するだけの頭は持っていたらしい。少し安心した。
「でも、いずれは出てくるのです。その時は、またオーウェンに会いに行くのです」
「早速再犯宣言か?お巡りさんお巡りさん、ここに犯罪予備軍がいますよ」
「違うのです。えっと、ここでは正しい愛の伝え方を教えてくれるらしいのです」
そんな事実があったとは、初耳だ。刑務所はいつから愛の伝道師を育成する場所になったのだろうか。上司が声を出さないよう必死になりながら笑い転げている。俺だって笑えるもんなら笑い飛ばしたい。が、どうやら彼女は本気らしい。いつもの通り。
「私はここで勉強して、帰ってくるのです。その時はもう一度オーウェンに会いに行くのです」
出来ればご遠慮願いたい話ではある。だが、遠慮したところで、彼女は来るのだろう。刑務所の方で止めてくれると信じている。いや、信じたい。願望である。
「オーウェン、オーウェン、私は、」
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