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「出来たぞ! これは傑作だ!」
「自分で言わないよ、普通は」
原稿用紙の束をドンっと机の上に置く父は自慢げにそう言った。
それをぺらぺらと捲りながら、柚子は冷めた視線を父へと投げつけた。
「あれ? 神社は実名なの?」
「あぁ。少しでもウチの神社を有名にしたくてな!」
「へー。無駄な抵こ…なんでもない。てか、お父さんが恋愛小説書いたの?」
「そうだ。どうだ?」
「普通年頃の娘に聞く?なんか…気持ち悪い」
「気持ち悪……っ」
50歳を超えている父が書いた恋愛小説(しかもモデルは自分)など読みたくないと、柚子は紙を捲る手を止めた。
一方の父は娘の“気持ち悪い”にショックを受けたようで、机に額をつけて俯いていた。
「まぁ、柚子ってば。父さんがショックの余り泣き出しそうよ」
「あ…。ごめん。つい本音が…」
「フォローになってないぞ」
そんなこんなで、柚子に冷ややかな目で見られた小説だったが、予想を反しベストセラーとなった。
話の中で登場した神社という事で、本の発売以降、主に若い女性の参拝客が大幅に増えた。
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