プロローグ

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リュックを探ると病院で買ったミネナルウォーターが入っていた。水を欲している少女に差し出す。 しかし少女は無言でペットボトルを見つめたまま受け取ろうとしない。 「遠慮しないで大丈夫だぞ。さっき買ったばかりのやつだし、まだ口もつけてないから」 少女の手にペットボトルを持たせる。 「水?」 訝しげな顔で手渡された容器を逆さまにしてみたり強く握ってみたりする。そしてキャップに手をかけると、 「ポイッ」 ペットボトルを投げ捨てた。 「捨てんな!」 俺の大声にビクッと体を振るわせながらも何食わぬ顔でペットボトルを指差す。 「水じゃないのです!」 自信満々の顔で言い切り、おまけに確信を持ってそうなのですと頷きやがった。 「水だろ!どこからどう見ても水だろ!」 「水を下さいなのですよ」 「だからそれが水だ!」 土に埋められたショックなのか思考回路がいささか正常に働いてないのだろう。俺は少しだけ不安を覚えながらも捨てられたペットボトルを拾い、土を払うと少女の手に戻す。 少女はもう一度慎重にペットボトルを眺め、 「ポイッ」 投げ捨てた。 「だから捨てんな!」
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