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話すと長くなる。全てを端折り簡潔に今の状況を言葉で表すというのなら、俺はこう答える。というかこう答える以外に俺はこの状況を表現できる言葉を知らない。
「緑色の髪をした少女らしき物体が土に埋まっている」
つまりはそういう事らしい。それじゃあ、この状況に至った末を詳しく説明する為に長い話をしようと思う。
昼過ぎ、俺は光が差し込む白い部屋の中にいた。花瓶に水を入れ、行きにフラワーショップで買ってきた花を入れる。
花瓶をベッド隣の小さなテーブルに置くと、俺もベッド脇に置かれたパイプ椅子に座った。
病院は静かで、その静けさが俺の心をより一層悲しくさせた。その思いを振り払うように洗面器に溜めたお湯でタオルを絞る。
そして病院のベッドで死んだように眠る少女の顔を優しく拭いた。
少女の名前は椿(ツバキ)。名字は藤宮(フジミヤ)で藤宮 陽一(フジミヤ ヨウイチ)、この俺の血の繋がった正真正銘の妹だ。
大和撫子を連想させる黒髪、前髪を真っ直ぐに切りそろえ、普段は可愛らしいカチューシャをしていた。
していたんだ。俺の言う普段はもう随分と前の事だ。俺はこの長く辛く悲しみに暮れた四年間、椿のカチューシャ姿を拝んでいない。
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