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椿は眠っている。病院のベッドで、四年前のあの日からずっと。
椿は俺の四才歳の離れた妹でその日も朝は仲良く家を出た。椿は小学校四年生、俺は中学三年生、兄妹の仲は良く、近所でも有名な程だった。
それというのも、椿がかなりの甘えん坊なせいだった。
家族の中でも群を抜いて俺に懐いていたし、照れくささはあったが、純粋な好意を俺に向ける妹の椿がそばにいて、嫌になる事はなかった。むしろ好きだったくらいだ。
その日も互いの学校の別れ道まで一緒に登校し、手を振って別れた。
「いってらっしゃいお兄様」
それが俺が最後に聞いた椿の声だった。
昼休み、突然校内放送で職員室に呼び出された。受話器を持った先生が心配そうな顔で俺を待っていた。
受話器の向こうで父親の声がして、今すぐ病院に来なさいと言われた。先生に促されるままに学校を早退し病院へ向かった。
父に言われた病室に入るとベッド脇で泣き崩れる母とその肩を支える父。そして頭に包帯を巻かれベッドの死上で死んだように眠っている椿の姿があった。
眼球が目の前の状況をとらえながらも脳が状況を整理しきれなかった。
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