プロローグ

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遷延性意識障害。重度の昏睡を差す症状 らしい。植物状態という。 脳外傷一年または脳素欠乏後6ヶ月を経過しても意識の兆候がまったく見られない患者は回復の見込みがゼロに近いらしく、永続的植物状態と言われた。 俺の妹は……椿は……植物人間になってしまった。 あの日から一年と半年が経とうとした頃、家族会議で毎日椿の見舞いに行く事を止めた。医者に回復の望みはないと首を振られたからだった。 母は週四日、俺と父は週二で椿に会い行った。二年が経ち、三年が経ち四年が経ち、俺達家族が椿に会いに行く回数は減った。 一週間にそれぞれ一日、椿に会いに行く。それが四年間の結果だった。 今日は毎週のように椿に会いに行く日だった。 「椿、俺も来年には高校卒業だよ。お前は中学生二年生だな……」 返事はない。椿の口は閉じられたまま動こうとはしなかった。もう慣れた事だ。いつも返事のない会話を繰り返している。 「今日はそろそろ帰るよ。また来週な椿」 顔を優しく撫でると病院を出た。二時か三時か大体そのくらいだろう。俺はゆっくりと自宅に向かって歩いた。
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