3.銘々の思惑

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──── 風が出てきた。 冷えきった外気が複雑にうねり、全身を隈無く叩く。まるで大河に放り込まれたような気分だ。 「寒ッ……」 呟き、マフラーを固めに巻き直す。それでもカバーできない目や頬が、みるみる内に冷たくなっていくのが分かった。 まだ十二月も半ばなのに、ここまで寒くなるとは思わなかった。強風が主な要因なのだろうがね。 身を縮こまらせながら夜道を進み、学生寮の第二寮棟に到着する。 玄関ホールに入っただけで、全身の筋肉が安堵した。素晴らしきかな暖房。人類の叡知、その偉大さを感じずにはいられない。 エレベーターの中も、出た先に伸びる五階の廊下も、同様に温かかった。 さて。エレベーターを降りたオレは、いつもなら晩飯のメニューを考えたり、その過程で冷蔵庫の牛乳の有無について考えたりするのだが、今日は少し違う。 何故かって、考えてみてほしい。 エレベーターからだいぶ離れたオレの部屋──502号室の前で、 「……」 我らがE組の大和撫子・葛西 晴海が深呼吸してるんだ。思考活動をそっちに完全シフトしても致し方あるまい。
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