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しかし。
(……それはそれよ)
ため息をつき、背もたれに体を預ける。
友達と仲良くする。なるほど、それは確かに、客観的にも社会的にも良いことだ。
が、今のユーリは、その必要を感じていない。
勉強し、立派な社会人になって、ハディス家の名に恥じない仕事をする。その過程において、友達と関わることは必須事項ではない。
少なくとも、彼女自身はそう思っていた。
(私は……兄さんのそばに居られれば、それで良いんだから)
他には、何も要らない。
「……」
無理やり言葉を飲み込み、納得するような感覚だったが、ユーリは深く考えないことにした。
思考を払うように頭を左右に振り、立ち上がる。病院から戻ってそのままだったため、まだ制服姿だ。
(今日は早く寝よ……)
明日は、検査入院を終えたゾリスを交えてのクリスマスパーティーがある。
それに備えて、と言うと大げさだが、ユーリは備える気満々であった。
侍女のキクを呼ぼうとすると、部屋のドアに軽いノック。
ユーリの部屋に事前連絡なしで訪れるのは、ゾリスかキクのどちらか。前者は居ないため、後者だろう。
「キク? 何?」
応答しながら扉に近づく、その背後。
熊のぬいぐるみが再び転げ落ちてしまったことに、彼女は気づかなかった。
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