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「三つ目は……学園の理事長さんに、ちょっと用があってね」
急に変化した語調に、木宮はほんの数ミリ首を傾げる。
優の黒い目には、温かい光が宿っていた。それまで仮面のようだった笑顔も、今は心の底を露にするかのようにまっすぐだ。
どことなく、鋼介のそれに似ている。
木宮が理想とする笑顔に、似ている。
「……まあ、しばらくはこっちに滞在するから、頭の片隅には置いといて」
にこやかな一言。呆けていた少年は、返事を返すまで間を必要とした。
「ああ……」
「それじゃあ、今度は僕から聞かせてちょうだい」
身を乗り出して優が切り出す。微笑みの中には、ニヤニヤと感じの悪い色も混ざり始めた。
再びの態度の豹変に少し面食らいながらも、木宮はぎこちなく頷く。
果たして、優は興味津々といった風に尋ねた。
「もうじきクリスマスだけど、蓮は予定とかあるのかい?」
すごく、楽しそうだ。
彼がどういう種の答えを期待しているのか、万人に察することのできる様子だが、
「……」
木宮は言葉に詰まった。表情は変えないまま、静寂だけを積み重ねていく。
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