68672人が本棚に入れています
本棚に追加
/424ページ
(とりあえず、気配で『話しかけるな』と訴えてはいるが……)
それは、不特定多数の女子だけでなく、桜田に対しても壁を作っていることを意味している。
「一緒に居たいとは思うが、どうすればいいんだ……?」
光明のない状況に憂いを抱く木宮は、言い終わった後に顔を上げ、怪訝な顔になった。
「ッ……」
優は体を折り曲げ、テーブルに突っ伏していた。
一瞬どこか悪いのかと案じたが、彼は小刻みに身を震わせている。見えるのは頭頂部だけで、表情は窺えない。
そろそろ何か声をかけようか、というタイミングで、
「あ~、まったく甘酸っぱい!」
ため息混じりに吠え、優は体を起こす。
その笑みは、どこか恍惚としていた。
「どうしてそんなに甘酸っぱいんだ! 何故そこまで初々しいんだ! 甘いカクテルでも飲みたくなってきちゃったよ、どうしてくれる!?」
「声が大きい」
店中の視線を集める父を、短い言葉で一刀両断した木宮は、とうとう小さく息を吐いた。
彼は、笑っていたのだ。
何をそこまで笑うのか、いまいち理解できなかったが、なんとなく嫌な気持ちになったので、無言のまま茶をすする。
最初のコメントを投稿しよう!