3.銘々の思惑

43/49
68671人が本棚に入れています
本棚に追加
/424ページ
やっと落ち着いた優は、木宮の不機嫌を読み取ったらしく、わずかに含み笑いした。 「ごめんごめん。お詫びと言ってはなんだけど、これあげる」 そう言って、手元の鞄から紙片を二枚取り出す。 受け取った木宮は、それらがチケットであることに気づいた。とある有名な劇団の名前が、一番上で踊っている。 「ミュージカル?」 「イブから始まる、クリスマス特別公演だよ。こっちのテレビでもCMやってるじゃない」 「……何故、オレに?」 訳が分からず尋ねると、やや呆れたように肩をすくめられた。 答えが返ってこないのは、少し考えれば分かる問いだったからだろうか。思考した木宮は手元に目を落とす。 じっと固まった末、少年はチケットを"二枚"渡されたことに着目し、納得した。 「これで桜田を誘えと?」 「その結論に達するのに、十四秒もかかるとはね」 さりげなく腕時計を見ていた優は、苦笑してから言葉を繋ぐ。 「もちろん無理強いはしない。でも、本当にどうしていいか分からなかったら、『一緒に行こう』って誘ってごらん」 彼は穏やかな声を閉じると、反論は受け付けないとでも言うように、さっさと食事に戻った。
/424ページ

最初のコメントを投稿しよう!