3.銘々の思惑

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まあ、それはそれ。さくっと疑問を解消しておくか。 「話があるんだろ? 長くなるようなら、上がってお茶でも……」 「そ、そんなことないよ! すぐ終わるから、お構い無く!」 ぱたぱたと手を振る葛西。さっきの赤面もそうだが、この和風美少女の動きを効果音で表すと、どうしても平仮名になってしまうな。 恵比寿顔で次の言葉を待つオレに、気弱な上目使いを向けながら口を開く葛西は、 「……」 すぐに声を飲み込んでしまった。 幼さの残る目をあちこちに泳がせ、一生懸命にセリフを探している。 この様子を見る限り、悪い話をする気はないと思う。が、そこから先に思考の手を伸ばせない。 お互い、どれほどそうして固まっていただろうか。 「えっと……やっぱり、また今度にする。ごめんね?」 申し訳なさそうな笑顔で、そう返された。 どこか物悲しさが漂う表情だったが、特に気にはしないさ。謝罪の一言が敬語じゃなかったのが、何だかとても嬉しかった。 葛西が敬語を使わないようになったのはオレだけじゃない。いつ頃からか、ユーリにもタメ口だ。 それだけ彼女とオレたちの心理的距離が縮まったということだろう。実に喜ばしい。
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