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ドアが勢いよく開き、
「神崎君!」
鉄砲水のような大声が、轟く。
二つの音声に、体が五ミリくらい浮き上がったような心地がした。
肋骨が砕けるのではないかと危惧するほど、鼓動を速めながら声のした方を見やる。
自室に戻ったはずの葛西が、再び廊下をこちらに向かってきていた。今の彼女の顔の感じは、オレのそれに似ているだろう。
つまり、心臓を躍動させてるのが見て取れる。
「あの、ね……」
最初の気迫が、一拍の衰えを挟んで再燃する。
「イブに映画祭っていうイベントがあるんだけど、良かったら一緒に行きませんか!?」
タメ口と敬語が入り交じった懇願は、音として耳に入る前に、物理的衝撃として体を揺らした。ような気がする。
「……」
答えるまでの三秒弱、様々な事柄がオレの脳裏をよぎった。
葛西の幸せそうな微笑み。さっき見たユーリの赤面。慎士の嫌みない笑顔。宍戸の皮肉るような笑み。
返ってきたテストの点数。商店街の人々。そういえばゴンはクリスマスセールとかするんだろうか、などという些末な思考。
それら雑事の脳内処理を終えたオレは、乾いた唇をそっと開いた。
「えっと……オレで良ければ」
滲む笑みの裏。
オレの心は、何とも言えず複雑だった。
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