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どれほどそうしていただろうか。
「君たちは気楽で良いな」
耳を疑いたくなる一言が、確かに鼓膜を震わせた。
口調こそいつもと変わらないが、宍戸が他人を羨むニュアンスの発言をするなんて……珍事を通り越してる。もはや変事だ。
チワワが華麗なダンクシュートを決める様を見せつけられたような気分でいると、彼はさらにセリフを続けた。
「好きな相手と好きに話して、好きに出かけて……将来の選択は自由。本当に気楽で良いよ」
ひどく、疲れた声だった。
「……本当にらしくねぇぞ。どうした?」
「……」
オレの問いかけには、無言が返ってくる。
横顔に変化は見られない。サッカー部の喧騒を背に、常の不遜な目つきで街を見下ろしている。
無表情とは少し違う──どんな気持ちにもとれるが故に、本心を読みにくい表情だ。
かける言葉はないが、今さら退く気もない。そんな気構えで待つ。
「今度のイブにある貴族会」
迷うような間の後、再開。
「許嫁と会うことになった」
「……ふぅん」
貴族会ってのは、昼に皇が話していた会合のことだろう。
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