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それにしても、許嫁か。
「何つーか……早ぇな」
「そうでもないさ」
暗い空を仰いで目を閉じる宍戸。風を肌で感じているかのようだ。
「早い者は生まれる前から決まっている。今ではそこまでする家は少ないが……十代半ばで決まるのは、普通か少し遅いくらいだ」
「そんなモンか?」
「先日、妹が生まれたばかりだからね。その騒動の影響で、通達が遅れたのだろう」
さらりと迫撃砲が撃ち込まれた。
「……おめでとさん」
「やめてくれ。実感が湧かないことを祝福されても迷惑だ」
宍戸は鼻で笑って目線を戻すが、口の端に浮かぶ笑みは消えない。何だかんだ言いつつ、妹が可愛いのだろう。
凄まじく身近な存在に感じて、思わず微笑んでしまうが、彼はすぐに鋭い目に逆戻りした。
「とにかく、許嫁に会うことに不満などない。嫡男として当然の責務だし、その程度の覚悟はとうの昔にできている」
「でも嫌なのか?」
「……」
再びの沈黙は、そう長くなかった。
「少し……疲れたのかもしれないな」
イケメンの部類に入る顔の上で、開かれた口が深いため息をつく。
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