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「現状に不満はないが、何も言わず受け入れるには少々億劫……といったところか」
つまり、さっきの「羨ましい」的な発言は、単なる愚痴だったってわけか。
何とも複雑な心境だが、貴族社会ってのはそういう葛藤に満ちた場所なのかもしれない。
しばらく互いに黙り込む。沈黙はこれで三度目だけど、異様に長く感じた。
「……僕らしくもないな。忘れてくれたまえ」
依頼とは思えない依頼が、オレの横っ面をひっぱたく。何でこんなに偉そうにしか話せないのかねぇ、こいつは。
肩をすくめると、遠くから車が近づいてくるのが見えた。宍戸が一歩踏み出したということは、あれが迎えなのだろう。
はたして、正門前に停車したのは、黒塗りのリムジンだった。
運転手たちがドアを開けたり荷物を持ったりしている間に、白髪の少年はこちらに振り向く。
「僕はこれで失礼するよ」
「……ああ」
ちょっと待ってみたが、それ以外は何も言い残さなかった。
こうして考えてみると、宍戸ってある意味、木宮より素っ気ないヤツだと言える。
許嫁とやらに愛想尽かされて、家全体の問題に発展させそうだ。
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