4.語らう日

18/33
前へ
/424ページ
次へ
──── 桜峰魔術師学園の、学生寮第二寮棟。 管理人を務める輝一 梨花が掃除を欠かさない玄関ホールに、一人の男子生徒が入ってきた。 ボタンをしっかり留めた紺のブレザーと、右手を包む黒い革手袋が、露出する肌の白さを際立たせている。 木宮 蓮だ。 エレベーターに入り、自分の部屋がある六階へのボタンを押す。 「……」 閉口する少年は、顔筋の一つに至るまで動かさない。外気を浴びて凍りついてしまったかのようだ。 が、脳は慌ただしく思考活動を行っている。主にクリスマスイブに関して。 父から大層なチケットを受け取ってから数日。彼は未だに、桜田に声をかけられずにいる。 何も躊躇う理由などないのに、どうしても手足が動かなくなってしまうのだ。過度な緊張を恥じずにはいられない。 感情を持てるようになったのは嬉しいと自覚する裏で、"こういう"場面では煩わしくもあると思った。 (……荷物を置いたら、行ってみるか) 桜田の部屋に、である。 話さなければならない状況に自分を追い込めば、どうにかなると考えた故だ。 日常生活で行われる思考とは言いがたいが、木宮は至って真面目だった。
/424ページ

最初のコメントを投稿しよう!

68679人が本棚に入れています
本棚に追加