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桜峰魔術師学園の、学生寮第二寮棟。
管理人を務める輝一 梨花が掃除を欠かさない玄関ホールに、一人の男子生徒が入ってきた。
ボタンをしっかり留めた紺のブレザーと、右手を包む黒い革手袋が、露出する肌の白さを際立たせている。
木宮 蓮だ。
エレベーターに入り、自分の部屋がある六階へのボタンを押す。
「……」
閉口する少年は、顔筋の一つに至るまで動かさない。外気を浴びて凍りついてしまったかのようだ。
が、脳は慌ただしく思考活動を行っている。主にクリスマスイブに関して。
父から大層なチケットを受け取ってから数日。彼は未だに、桜田に声をかけられずにいる。
何も躊躇う理由などないのに、どうしても手足が動かなくなってしまうのだ。過度な緊張を恥じずにはいられない。
感情を持てるようになったのは嬉しいと自覚する裏で、"こういう"場面では煩わしくもあると思った。
(……荷物を置いたら、行ってみるか)
桜田の部屋に、である。
話さなければならない状況に自分を追い込めば、どうにかなると考えた故だ。
日常生活で行われる思考とは言いがたいが、木宮は至って真面目だった。
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