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考える間も与えず、慎士は先を続ける。
「結婚ってさ、目的があんじゃん。ガキ作るとか団欒したいとか」
ひどく大雑把な選択肢だが、まあ間違ってはいないか。
「再婚もそうなのかもしんねぇけど……ウチの親はそうじゃねぇから」
ジャケットを何着か手に取り、ふらりと姿勢を変えて横を向く。
炎よりもなお赤い、まさしく灼熱の色に染まる瞳は、いっそ悲しいくらい澄んでいる。
「子供のコの字も言わねぇし、三人で飯食ったのも、片手で数える程度だし……何のためにくっついたんだろうな、あの人ら」
「……」
慎士は心を持っている。好きなヤツには笑顔で接するし、馬の合わないヤツには嫌な顔も見せる。
でも、"あの人ら"と呟く彼の顔は、そのどちらでもなかった。
蝋人形やマネキンが、たまたま眼前に横たわる世界を見つめるような──興味も感情もない顔。
木宮とは違うタイプの空虚さが漂う、表情と呼ぶのも躊躇させる無表情。
初めて見る慎士の一面に、服の内側で背筋が震え上がった。
温かいとか冷たいとか、そんな次元の話じゃない。完全な"無"なんだから。
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