4.語らう日

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黙っているのも辛くなり、聞いてみる。 「お前は何でだと思ってんだ?」 「……分かんね」 答えてうつむく慎士の顔に、悲しさや寂しさがごちゃ混ぜになった心情が、わずかに滲み出る。 「でも……あの人は可哀想だと思う」 あの人? オレに小首を傾げさせた疑問は、すぐに氷解した。 「構ってくれねぇ旦那と、ろくでもねぇ義理のガキだけの……狭っ苦しい檻ん中に、閉じ込められちまったんだから」 「……そっか」 ふっと頬が緩んだ。訝しげな視線が刺さるのは当然と言えよう。 「何だよ。今の笑うトコ?」 「悪ぃ。安心して、つい」 「……今のお前も分かんねぇわ、オレ」 ボリボリと髪を掻き回す彼に、心底良かったと思って笑みを向ける。 「興味ない」なんて返答が来たらどうしようと、少しだけ怖かった。 (ただ……分からないだけなんだよな) 慎士は、好きでも嫌いでもない無意味な存在としてではなく、不明瞭で不確定な人たちとして、両親を見ている。 興味があるなら、きっと大丈夫。 『理解したい』という欲求を捨てていなければ、分かり合うチャンスは生まれるはずだ。
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