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いつもの癖で後頭部を掻きながら、しどろもどろに提案する。
「えっと……そろそろ帰るか! もう遅いし」
もう十時を回って久しい。女の子が居るんだから、せめて十一時には帰っておきたいところだ。
突然言い出され、葛西は少し面食らっていたようだが、
「うん」
反論もせずに頷いた。
「じゃあ、足元とか気をつけてな」
素直に承諾されたことに安堵し、右手をポケットに突っ込む。
そこで指先に触れたのは、小さな紙袋──
きゅっ、なんて。
そんな効果音が似合いそうな力の加減で、上着の袖が掴まれた。
吐く息も、降り散る雪も。何もかもが白い夜の下で、歩き出そうとしたオレは立ち止まる。
止めたのは、少女。
「……葛西?」
「五秒だけ、待って」
言い返された要求は、常の葛西にはない、表現不能の大きな力を感じさせた。
「……」
五秒。たった五秒だ。
その間、オレは蛇に睨まれたカエルさながらに、指一本に至るまで動かせなかった。
奇妙な感覚の正体も掴めないまま固まるオレを、顔を上げた葛西が、一直線に見据えてくる。
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