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紫に染まる、その双眸。
頬も耳も(たぶん)照れで赤くなる中、そこだけは驚くほどまっすぐ視線を撃ち、オレの網膜を貫く。
「……」
この目は、今まで見てきたどんな葛西のものとも違う。
図書室で宍戸を一喝した時のような怒気はなく、学園祭の衣装を披露した時ほど照れてもいない。
純粋な決意が、今の彼女にこんな眼光を持たせているのだろう。
(ヤバい)
『逃げたい』。真っ先に浮かんだ感情がこれだ。我ながら情けなさすぎるが、そう思わせるだけの眼力が、今の葛西にはある。
それを抑えたのは、逃げてはいけないという、どこか使命感にも似た衝動。
競り合う二つの内、辛うじて勝った後者の働きで、オレの両足はその場に留まる。
(ヤバい)
オレでも、分かる。
葛西が今から何を言おうとしているのか、察しがついている。
だからこそ、逃げたかったのかもしれない。弱さから来る甘えた願望が、心の端から滲んだのかもしれない。
(ヤバい)
「私ね、誰かを助けられる人になりたいって思ってた」
内心で焦りに焦るオレに、葛西は穏やかに口火を切った。
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