68683人が本棚に入れています
本棚に追加
「たった一人で、たくさんの人の力になれる……強くて優しい人になりたいって」
「……それは」
「分かってる。そんなの無理だよね」
あっさり否定する葛西は、薄く自嘲気味に笑う。
「私は神様じゃないから……一人きりで何でもできるほど、強くなんかない」
オレたちは、強くない。
誰もが知ってて、しかし受け入れたがらない、絶対の真理。
「でもね……たった一人を、死ぬ気で支えることなら、私にもできると思うの」
ここで、葛西は顔を上げ、アメジストのような目でオレを見上げる。
そこに宿る意思は、次の瞬間、
「私は……神崎君を支えたい」
確固たる言葉と化して、オレの脳を直撃した。
まるで思考回路が災害に見舞われたようだ。考えるという作業を行えない。
「誰よりも神崎君の力になりたい。誰よりも神崎君のそばに居たい。誰よりも、神崎君の一番でありたい」
どういう意味の"一番"か。分かってるはずなのに、脳がその意味を把握してくれない。
「……神崎君」
「は、はい」
混乱のあまり、半ば裏返った敬語になるが、葛西は指摘しなかった。
深呼吸を一回挟み、
(ああ、来る)
意を決したように、
(来ちまう)
唇を開く。
最初のコメントを投稿しよう!