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しばらく横たわった静寂は、
「……ありがとう」
(少なくともオレにとっては)意外すぎる言葉で破られた。
見開かれるオレの目には、顔を上げた葛西の、朗らかな微笑が映る。
「ホント言うとね、返事はまた今度にした方が良かったんじゃないか、って思ったの。
急にこんなこと言われて、神崎君も困っちゃったと思うから」
「……」
「ちゃんと答えてくれてありがとう。私はそれだけで……」
「やめてくれ」
妙に早口な彼女の言葉を、努めて低い声色で遮る。
うぬぼれていいなら……それが葛西のためだ。
「ッ……」
繋いでいた言葉を飲み込む葛西は、先刻までの笑顔を失い、消沈していた。
が、表情の根っこは変わらない。彼女はもともと素直な子だから、瞳を注視すれば、それくらい誰でも分かる。
(さっきも、今も……)
目が、泣きそうなのだ。
涙が溜まってるとか、そういう意味じゃない。暗くて深い情念の塊が、濃い紫の果てに確かに見える。
そんな……"泣きたい"以外の感情も複雑に混ざった目で、無理に笑わないでほしい。
そんなの、オレが知る葛西の笑顔じゃない。
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