8.血の接吻

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命令を受けたオセの返事は、 『血迷うな! 何度言わせるつもりだ!』 激昂で赤く染まっていた。牙が並ぶ口は、さらに続ける。 『理屈は分からんでもないが、今の貴様に時間を稼げるわけがあるまい! ならば、固まって動いた方が良いに決まっている!』 「一緒にちんたら走ってたら、それこそ逃げられねぇだろ!」 二足に戻ったとはいえ、オセはまだ魔力に余裕があるはずだ。全力で走れば、すぐ学生寮に着けるかもしれない。 が、今のままオレに合わせてたら、復活したタナトスに一網打尽にされるのは必至。 要するに……的を分散させなければ、三人揃ってお陀仏なのだ。 一歩も譲らないオレに、彼は固く歯を食い縛った後、 『貴様……死ぬぞ?』 悔しそうな声を、絞り出した。 召喚獣としての恥か、一生物としての屈辱か。うつむく頭からは、そんな哀愁が漂う。 「……」 分かっている。 オセがどんなに速く走ろうと。どんなに早く知らせようと。タナトスの侵食を抑えられるわけじゃない。 ここに残るという選択は、九割九分の確率で、死ぬという結末に結びつく。 分かっている。言われるまでもなく、理解できている。
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