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ふと、視線を動かす。
闇夜の中で浮かび上がる金髪が、滝のように宙を流れ落ち、艶やかな毛先で虚空を掻く。
整った目鼻立ちが、規則正しく立てる寝息は安らかで、現在の危機的状況を感じさせない。
麗しい寝顔は、学園祭の最終日、教室で見た時のものと重なる。
いつの間にか日常になっていた非日常。その一端が、彼女の表情を通して脳裏をかすめる。
「……」
途端に、胸に熱いものが込み上げた。心を覆っていた理屈の鎧も、音を立てて崩れ始める。
いつまで経っても立ち上がらず、オレに物思いにふけるだけの時間を与えたオセは、はっきり言って卑怯だ。
これが彼なりの思いやりで、気遣いなのかもしれないけど……いくら何でもズルすぎる。
努めて恨めしく睨んでやるが、彼は顔を上げない。恐らく目も閉じているだろう。
その静かな様は、まるで無言で責めているかのようだった。
嘘をつくな、と。
「……はぁ」
耐えられず漏らした吐息が、わずかに震える。
その小さな振動は、ユーリの額にそっと伸ばした右手にも伝わった。指の腹が、整った眉を軽く撫でる。
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