8.血の接吻

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「ゾリスさんの最後の頼みは無視できない」? ああ、そうさ。それはオレの本音だ。嘘偽りのない真実だ。 でも、それだけじゃない。 まったく情けない話だが、そんな漫画の主人公みたいなセリフを残して死に向かえるほど、オレは出来た人間じゃないからな。 いつだって自分のことで手一杯で、中途半端にしか人を助けられない、いっそ悲しいくらい小さな人間だよ。 でも……いや、だからこそ。こういう時は全力で助けたいんだ。 (だって……) オレは、ユーリに生きてほしい。 オレの命を犠牲にしてでも守り抜きたい。たとえそれが、彼女を苦しめることになっても。 オレは、ユーリに生きてほしい。 (ホント……嫌になるな) ああだこうだと美辞麗句を並べ立てて、結局は自分の都合を押し通すだけ。なんて幼稚な決意なんだろう。 でも、まあ……自分で言うのもアレだけど、悪くないんじゃないか? この血まみれの腹の奥。据えられた覚悟は、確かに鋼鉄になっているから。 それに──── かすかな月明かりにも白く輝く、美しい肌に吸い寄せられるように。 オレはユーリの顔に、そっと自分のそれを近づける。
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