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惚れた女のために命張れるなら、その生き方は決して悪くないだろうから。
「生きろよ」
たった四文字に、オレが抱く気持ちの全てを乗せる。
「嬉しくなくても、楽しくなくても……痛くても苦しくても、悲しくても辛くても、生きてくれよ」
我ながら恐ろしいことを言っている。こんな残酷な重荷を、こんな細い体に背負わせるつもりか。
血を分けた唯一の家族を失って、立ち続けられるかどうかも怪しい女の子に、まだ絶望を要求するか。
でも。だけど。それでも。
生きてさえいれば、人は何かを変えられる。
その可能性がユーリにもあることを、オレは信じている。
「……それだけでいい」
毛布代わりの上着。そのポケットを探り、小さな髪留めを取り出す。
銀色のプレートに、紫の玉とゴムが付いただけの簡素なそれを、華奢な手に握らせた。
真冬の深夜にあって、この手は驚くほど温かい。
「それだけでいいから……生きてくれよ」
ぬくもりを手のひらの細胞に記憶させ、立ち上がる。澄んだ空気が冷たい。
振り返り、右手の腕輪から黄金色の剣を生み出したオレは、
「伝えといてくれ」
今度は、未だに立ち上がらない豹に言った。
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