8.血の接吻

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不意に吹き渡る乾いた風が、辺りの梢をざわつかせる。 それは、一つの予感。 細く息をつき、空を見上げる。見えるのは米粒よりも小さな星と、まばらに浮かぶ雲ばかり。 「……」 背後の気配が、なかなか立ち去る様子を見せない。 急かしてやろうか、と考えた矢先のことだった。 『断る』 威厳に満ちた重々しい声と、荒くも甲高い音が、オレの背を乱暴に叩く。 再び踵を返した先には、オセの広い背中。わずかに覗くユーリの横顔。そして、彼らとオレの間に横たわる、一振りの剣。 幻覚能力を宿す、オセの愛刀だ。 無言のまま拾い上げ、礼を言いつつ急がせようと考えたが、オレは二の句を継げなかった。 『……生きて……』 続く言葉──ほんの少しとはいえ震えていた声に、呆気にとられてしまったから。 もう一度、わずかな沈黙を挟んだオセは、 『生きてッ……自分の口で言え、馬鹿者が!』 震えを隠すような咆哮を発し、大きく跳ぶ。巨体は森の深い黒に紛れ、あっという間に見えなくなった。 数秒前まで広がっていた、木々の声しか聞こえない静寂が、帰ってくる。
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