68680人が本棚に入れています
本棚に追加
不意に吹き渡る乾いた風が、辺りの梢をざわつかせる。
それは、一つの予感。
細く息をつき、空を見上げる。見えるのは米粒よりも小さな星と、まばらに浮かぶ雲ばかり。
「……」
背後の気配が、なかなか立ち去る様子を見せない。
急かしてやろうか、と考えた矢先のことだった。
『断る』
威厳に満ちた重々しい声と、荒くも甲高い音が、オレの背を乱暴に叩く。
再び踵を返した先には、オセの広い背中。わずかに覗くユーリの横顔。そして、彼らとオレの間に横たわる、一振りの剣。
幻覚能力を宿す、オセの愛刀だ。
無言のまま拾い上げ、礼を言いつつ急がせようと考えたが、オレは二の句を継げなかった。
『……生きて……』
続く言葉──ほんの少しとはいえ震えていた声に、呆気にとられてしまったから。
もう一度、わずかな沈黙を挟んだオセは、
『生きてッ……自分の口で言え、馬鹿者が!』
震えを隠すような咆哮を発し、大きく跳ぶ。巨体は森の深い黒に紛れ、あっという間に見えなくなった。
数秒前まで広がっていた、木々の声しか聞こえない静寂が、帰ってくる。
最初のコメントを投稿しよう!