8.血の接吻

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痛がる素振りもない立ち姿に、尋常ではない恐怖を感じるが、ひるむわけにはいかない。 最低でも、オセが第二寮棟に着く時間は稼がなければならないのだ。向こうから会話を始めてくれて、正直助かったくらいである。 「……ニンゲンじゃねぇ」 オセの刃を手に、立ち上がった。満身創痍のはずなのに、足はかすかな震えもなく体を支える。 「神崎 鋼介だ」 「どちらでも大差ない」 端から端まで黒い両刃剣に、月光をも喰わせながら、タナトスは侮蔑の色を瞳に混ぜる。 「ハエを名前で呼び分ける、意味も必要もないのだから」 本気でそう思ってるなら、いよいよこいつの頭も末期だな。 ちょっとおかしくて、こんな状況にもかかわらず苦笑してしまう。 「そのハエごときに、滅ぼすとか胸くそ悪いとか言ってんのは誰だよ」 「調子に乗るなよ、下等生物」 冷たい声が、ぬるりと耳に侵入するのと同時に。 絶対零度の"死"を帯びる剣が、オレの靴を食い破り、足を貫いて、地面に突き立つ。 すぐに抜かれたが、次いで襲ってきた手刀に手首を打たれ、オセの愛刀を取り落としてしまった。拾う間もなく蹴り飛ばされる。
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