8.血の接吻

44/56
前へ
/424ページ
次へ
未来を閉ざす、一言。 しかし、それを聞いてもオレの心には波が立たない。さっきまでの恐怖が嘘のように落ち着いている。 ゆっくり立ち上がると、右足から血が溢れた。水たまりに足を突っ込んだような、でもそれにしては生暖かい感触が、気味悪くまとわりつく。 「……【ソード】」 中身がほとんど詰まっていない、張りぼてに等しい刃を具現する。 黄金色の光が、心なしか弱い。それでも懸命に輝き、普段と変わらぬ姿を保とうとしていた。 得物を眺める内、それを握る、一直線に傷を負った右手の甲が目に入る。 「……」 ごめんな、と。 心の中だけで謝罪し、柄を両手で掴んだ。改めて敵を見据える。 微塵も揺るがず、毛ほども迷わず。夜空の下でじっと塞がる立ち姿は、まさしく壁。 生物が決して乗り越えられない、死そのもの。 「苦しめ」 <メメント=モリ>に、赤を弾けさせる黒雷を這わせ、 「そのついでに、死ね」 死神は、地を蹴った。 対するオレは、返事をしないまま剣を構え、迎え撃っていなす体勢を作る。 「……」 どういうわけか、まだ怖くない。 何というか ────
/424ページ

最初のコメントを投稿しよう!

68680人が本棚に入れています
本棚に追加