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一太刀目を浴びてから、どれだけ経っただろう。気絶しては目を覚ます、それを何回繰り返しただろう。
何度目かの覚醒の時、オレは膝をついていた。
両手を力なくぶら下げ、正座する形。体の随所で跳ねる黒い稲妻が、滴る鮮血を弾き飛ばす。
感覚も失せた体は、吹きつける風の冷たさだけを、明確に脳に伝えるばかりだ。
痛みは、届けない。
「……」
かすむ視界が軽く揺れる。髪を掴まれ、顔を上げさせられたようだ。顔らしいものが見える。
ぼやけてはいるが、あのおぞましく鮮やかな赤は、彼の目に違いない。
しばらくその状態が続いた後、オレのか細い呼吸に混じり、吹雪すら凍らせるような冷たい声が、鼓膜を氷漬けにする。
「何か、言い残すことはあるか」
お約束といえばお約束の──敵の最期に投げかける質問。
終わりを本格的に悟って、まだオレの心は平坦だ。止めどなく溢れる切なさに揺れ、他の感情が入り込む余地がない。
(なあ、タナトス)
心の続きは、声に。
「……お前……」
乾いた喉を裂き、かすれた呼気が言葉になる。
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