8.血の接吻

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「……幸せか……?」 人を殺して、幸せか? 殺して殺して殺し尽くして、このだだっ広い世界を空っぽにして、幸せか? 一人ぼっちで、幸せか? 「……」 答えはない。ドライアイスのような視線を、額の辺りに感じるだけだ。 目がかすんでいるせいで、表情もよく分からない。あの身の毛もよだつ無表情のままなのだろうか。 沈黙が破られるまで、辺りの木々が物悲しげにざわめく。 「不幸のどん底だ」 重々しい返答は、やはり揺るがない。 「幸せには、これからなる」 「……そうか」 あまり堂々と言われたモンだから、つい笑ってしまった。口角が上がるのが分かる。 何というか……分かっちまった。 (こいつは、もう……) 心が、終わっているんだ。 自分が"最悪"の状態にあると悟っているから、何を言われても変わらない。 生かすより殺す方が、大勢より空っぽの方が、みんなより一人の方が。何千倍も幸せだと確信している。その考えを固持している。 それじゃあ……止まらないよな。 幸せになるための道があって、歩いていく力があるなら……途中で立ち止まるなんてことは、普通しないよな。
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