8.血の接吻

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でも。 命を幾万と奪った、その果てにある幸せなんて、無意味だ。 顔も知らない誰かまで泣かせなきゃ得られない幸せなんて、無価値だ。 大事な人と分け合えない幸せなんて、無慈悲だ。 所詮は幸せに生かしてもらえた人間の、都合の良い綺麗事なのかもしれないけれど、オレは嘘偽りなくそう思う。 だからさ、タナトス。 「オレは……御免だよ」 静寂。暗闇。 木の葉がそよぐ音さえ聞こえない完全な無音。月が雲に隠れた深い宵闇。 それら全てを裂くように弾けて唸る、漆黒の神力が見えたのを最後に。 オレの視界は、急に黒一色に染まってしまった。 ……やれやれ。 ────
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