8.血の接吻

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──── 腹と口から赤を滴らせ、オセが闇夜を駆け抜ける。 四つ足の彼の背には、上着の裾を風にはためかせる、一人の男性がいた。 目を険しく輝かせる、右京 太助である。 天の川を凝縮したような眼光は、オセの体を走るたてがみと共に、冬の森を鋭く斬る。 『そろそろ、結界だ』 「何でもいい。早く行け」 声が素っ気なくなるのを抑えられない。見据えた先にあるものを、懸命に見定めようと気を張る。 今から向かう先にいるのは、全メシア中、最も恐れられていた一体なのだ。手も気も抜けない。 その上、鋼介の命まで懸かっているのだから、なおさら目に力が宿った。 (間に合ってくれよッ……!) 祈りとも怒号ともつかない叫びを心に響かせ、歯を食い縛る。 その直後、大きな音が夜風を吹き散らした。 『ぐぁ……!』 身悶えるオセ。額を結界に打ち付けてしまったらしい。出るのは楽だが、入るのは容易ではないようだ。 「ちょっとどいてろ」 落ち葉も朽ちた地面に降りた右京は、想定外の追撃を受けた豹に、固い声で指示する。
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