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金属同士が衝突する、豪快な音が響き渡る。
白黒一対の牙は、黒衣に包まれたタナトスの身に噛みつく前に、漆黒の両刃剣に阻まれた。
獣の上アゴを象る峰も、本物の野獣のような光を、目を表す玉石に宿す。
「……笑うな……」
「私の聴力は、ハエの声が聞こえるほど優秀ではないのだが」
怒り以外何も含んでいない唸りに、しかし余裕の挑発が返される。
対して、右京は余裕も平静も失った。
「テメェが……あいつを何も知らないテメェがッ……!」
黒々とした稲妻を纏い、跳ねさせる体が、右半身に紋様を浮かび上がらせる。
直後に上がる顔の中で、双眸が鋭利な真紅を羽織った。
「あいつを笑うんじゃねぇ!」
咆哮し、一閃。
原子の結合をも断ってしまいそうな斬撃が、タナトスを一気に後退させる。
彼我の距離は数メートル。互いにスパイルの限定空間の中にあるため、積極的に距離を詰めようとはしない。
このまま右手を軽く差し出せば、それだけで心臓を貫くことができる。
「くたばれ、死神!」
吠え、目の前の空間と、タナトスの左胸の辺りを『調和』させた。
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