8.血の接吻

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が、切っ先が入り口に入るより先に、タナトスが肉薄してきた。 数メートル向こうに鋭い剣尖が現れるが、一秒前に彼が移動したため、当然この突きは空振り。 突然の接近に、驚愕する暇も得られず、 「Assist・87【軛の豪雨】」 右京の体は、計五本の杭によって地面に串刺しにされた。 本来はダメージ皆無の補助呪文のはずだが、タナトスの神力の影響か、四肢と胴に激痛が走る。 「ぐ……!」 悲鳴は上げない。そんな無様な真似だけは、絶対にしたくなかった。 意地で喉を閉じる彼に、やはり死神は容赦しない。 「確かに、スパイルの限定空間は我々の中で最も広いが、それを利用する脳と思考は、あくまで一つだ。 『効果範囲を指定して神力を発動する』なら、攻撃が届く前に、その領域を脱してしまえばいい」 話しながら上げた足が、右京の頭を踏みつけ、冷たい大地に押しつける。 唯一残る右目は、地獄の業火さながらの視線を突き刺した。 「同胞の力だ……攻略法を知らないわけがあるまい」 「ッ……」 砕けてしまいそうなくらい強く、上下の歯を噛み締める。
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