8.血の接吻

55/56

68672人が本棚に入れています
本棚に追加
/424ページ
激情にあてられ、両目に劣らず真っ赤に染まる脳細胞は、どうすれば敵を八つ裂きにできるか、それだけを考える。 体は来たる攻撃に備えて魔力を帯び、覚悟と怒りに力んで震えた。 「……」 しかし、タナトスは動かない。言葉も漏らさず、右京の頭を踏んだまま固まっている。 見上げることのできない右京は、視線を感じても、彼の表情を知ることはできなかった。 どれほど、そうしていたか。 「……ふん」 忌々しげに鼻を鳴らしたタナトスは、足を上げ、完全に動きを封じた獲物に背を向けた。 そのまま歩み去りながら、呆気にとられつつ顔を上げる右京に言い放つ。 「死んだ虫けらに興味などない。そこで朽ちて骨になれ」 「誰が死んだって?」 再び額に青筋を浮かべる右京。彼の右手を貫く杭が、かすかに綻びを見せる。 「ふざけた口叩くならなぁ、最低限こっち見やがれ、腰抜けが!」 「腰抜けは貴様だろう」 沸騰していた頭が、急速に冷めた。 反対に、心臓は一気に鼓動を速め、体内でやかましく騒ぎ立てる。そのくせ口は静かに閉じるのだから不思議だ。
/424ページ

最初のコメントを投稿しよう!

68672人が本棚に入れています
本棚に追加