8.血の接吻

56/56

68672人が本棚に入れています
本棚に追加
/424ページ
「それに……大差ない」 静寂の短きは、答えが返ってこないことを悟ってか、ただの気まぐれか。 「そう遠くない未来、人は私の手で滅ぶ。今日死のうが明日死のうが、違いなどさほどあるまい」 言いながら、ようやく振り向いた顔は。 右目の視線一つで、世に蠢く全ての命を射殺してしまいそうな、凄絶な殺意に満ち溢れていた。 「貴様の世界の"終焉"……見届けてから死ね、腰抜け」 タナトスは害意と共に吐き捨て、黒一色の得物をしまいもせず、立ち去る。 右京の名は、尋ねなかった。 「……」 唇を引き結び、細い背を見えなくなるまで睨み、見えなくなったら頭を地面に横たえ、一息。 時を同じくして、黒く弾ける魔力体が五本、音を立てて崩れた。 が、右京は動かない。未だ拘束されているように、地面に頬を当てて硬直する。 木々が、慰めるように葉を揺する。 「……ちくしょう……」 毒づいた拍子に、冷えきった空気に乗って、土の味が舌を突いた。 人知れず、ぎこちなくも確かに回る歯車に、突き動かされるようにして。 運命は、動く────
/424ページ

最初のコメントを投稿しよう!

68672人が本棚に入れています
本棚に追加