9.残ったもの

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入口と出口を兼ねるドア。その最も近くの席に座るのは宍戸だ。 足を組み、目を閉じてうつむく彼には、いつもの高圧的な覇気がない。とにかく静かである。 彼より一歩こちらでは、慎士が椅子に座り、貧乏ゆすりしていた。 険しい顔ではあるが、苛立っているわけではなさそうだ。かといって、冷静さを保てているわけでもないが。 それまで右を見ていた顔を左に転じれば、残る女子二人が同時に視界に入る。隣り合った席に着く、桜田と葛西だ。 しきりに葛西の顔色を窺う桜田だが、本人は反応を返さない。 四人とも、冷静さを欠いている。こうして傍観者のように俯瞰する木宮もまた、どこか落ち着かない。 (……遅いな) この場にいない、自分たちが待ち続ける人物のことを考えた、直後。 会議室の扉が開き、スーツをだらしなく羽織った男性が、頭を掻きながら現れた。 「右京サン──!」 「一服させろ」 立ち上がって詰め寄ろうとした慎士の言葉を遮り、彼──右京は議長席に腰かける。 懐を探る姿には、いつも以上に力がない。暗い色の髪もあらぬ方向に跳ね、疲労を如実に表していた。
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