9.残ったもの

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しかし、負傷らしい負傷は見当たらない。精神的疲労は相当のようだが、体は至って健康そうだ。 (戦わなかった……のか?) 勘繰る木宮の脳裏に、昨夜の出来事が去来する。 あの夜、第二寮棟にはこの場の全員に加え、時音や理事長など、メシアを知る人間が集結していた。 (特に宍戸が居合わせたことが)奇遇だ何だと雑談し、日付が変わる直前になった頃。 昏睡状態のユーリを抱えたオセは、突如として来訪した。 彼は腹に重傷を負っていたが、鬼気迫る形相で右京への面会を求め、早口にまくし立てた。 鋼介の現状に、居場所。そして、全員の度肝を抜く一つの名前を。 潰れていた時音も、瞬く間に酔いを吹き飛ばして対応しようとした矢先、 『お前らはハディスを頼む』 そう言った右京は、周りの制止も聞かずオセに跨がり、鋼介の元へ行ってしまった。 理事長や時音と共に、ユーリの保護に徹していた彼らは、その後の経緯を何も知らない。 故に、全員一睡もしていないにもかかわらず、朝早くに一人も欠けることなく集合したのだが、 「……」 少なくとも木宮は、紫煙をくゆらせる担任が何を見たのか、現在の様子から予想できてしまった。 他の面々も同じなのかどうかは定かではないが、情報開示を急かす者はいない。
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