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「……さて、何から話してもらおうか」
僕は男の言葉を聞き流しながら、考えに耽っていた。今居るのは古い小さな小屋で、椅子と机と寝具らしき藁が隅の方に置いてあるだけだ。目隠しして連れて来られたが、歩いた距離と方向から考えるとまだシャギュアの中だろう。
「何を、といっても旅の話なんて聞く必要もないだろうに」
「そんなものこちらも興味は無い。今聞きたいのはあの男とお前の関係だ」
男の言葉の端々から、苛立ちが見えた。それが演技なのか違うのかは分からない。とりあえず、椅子と僕の手に結ばれた縄はそう簡単には外れないだろう。そして、鎖は外れずに手首にある。
「あの男、って誰だい?」
「とぼけるな。あいつとお前が話しているのは、私服の監視の者達が見ていた」
「なるほど、そういう事か」
行商人の言葉がつながった。外の人間には警戒が厳しいという事だろう。人々の表情が明るかったのにも納得がいく。男が訝しむような視線を向けてくるが、さして気にならない。
「……で、何を話していた?」
「そんなに言葉は交わしてないよ。挨拶をしただけだ」
去り際の言葉は、銀髪にはさようならに当たる言葉でしかないだろう。言う事もない。
「そんな訳は無いだろう。あの男はこの街で何かをやる」
「あんなのが予想出来る事をやる訳が無い」
銀髪と腐れ縁の僕には、それは常識だ。
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