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「…………」
重い沈黙が続いている。男は椅子に座っていて、僕は藁の上に寝そべっている。藁は時々僕の背中を刺激してきて、心地がいいという訳ではない。取ってきたばかりなのだろうが、床の上よりはマシだった。
「話すつもりはないのだな?」
「大した事は話していないよ。そこに現れるのが、彼の意図を一番正確に表す言葉だ。それに、僕も彼がここに現れ、君達が彼を気にする理由に興味がある」
色々な所業を行って来たとはいえ、銀髪がその興味の対象にするのはなんらかの落ち度を持つ者に限る。その辺りは、銀髪はとても狡猾だ。そして……
「駄目だな、それは言えない」
「なら交渉決裂だね」
思考の渦から呼び戻されるより先に、僕の口が自然に動いていた。僕が自由な腕を動かすと、鎖が生き物のように音をたてて動いた。残念ながら足は男の戒めにより動かないが、まあ十分だろう。だが、男の無表情には、先程とは違い綻びは見えない。
「……待っていてくれ」
男は静かにそう言い、小屋を出た。上に報告でもするのだろう。入れ代わりに、二、三人の屈強な男が入って来た。ただ、あの男程の脅威には感じなかった。
僕は、自分が冷や汗をかいているのに気付いた。危ない橋を渡ったが、道は見えていた。
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