深夜の逃走劇

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「……そうか」 沈黙を破ってヴァリウスが呟いた。その声も表情も決然としていたが、覆い隠せない悲哀と苦渋と、そして寂しさに満ちていて、一目で彼だと分からなかったのが仕方ないと思えるほどだ。彼は、二年で驚く程老いていた。 「奴の事を話すつもりもないのだろう。今現在、お前の色は灰色だ」 「嬉しいね、拒絶する手間が省けた」 僕が言うのとほぼ同時にヴァリアスが手を上げ、ヴァリアスの脇に控えていた男達が得物を取り出した。ナイフや充魔式の拳銃などを僕に向け、それでいてスーツも表情も崩さない。 再び部屋に沈黙が満ちた。ただし今回は自然な物では無く、破られるべき物だ。 手を動かしてみたが、縛っている縄は解けなさそうだった。徐々に腰を低くして、ゆっくりと呼吸する。 地面に付いた鎖が音をたてた瞬間、僕は猛然と走りはじめた。目指すのは、ヴァリアスの後ろの窓。更に縄を切る刃物の存在を強く想像した。僕の右手の人差し指は、僅かに淡く発光しているだろう。古代言語で、発現の鍵を呟く。 『サーシュル・ピルク』 人差し指を縄に当てると、縄が切れた。『サーシュル・ピルク』は、指を魔のエネルギーで覆い、刃物のようにする『魔法』だ。 腕を振り回す。飛んできた投げナイフが鎖に弾かれ、悲鳴をあげて僕の耳元を通過した。 魔弾の装填にはしばらくかかるだろう。そう考えた。視界でヴァリアスが、腕を上げた。吹っ飛んだ。 しばらくして、僕は床にたたき付けられていた事に気付いた。純粋な魔が、僕を吹き飛ばしていた。
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