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背中越しに伝わる青草の柔らかさが、心地好い。
陽の眩しさに目を細めつつ、腕を伸ばす。
ふとあくびをして、立ち上がる。手首に複雑に巻き付いた鎖が、ジャラリと音を立てた。右手で頭を掻くと、黒い毛がはらりと落ちる。
早朝の、それも草原の真っ只中の街道には人影は無い。傍らの荷物を引っ張り上げて毛布をしまい、一歩を踏み出す。
歩く。ただそれだけ。ただそれだけが、僕の日常だった。
道行く人々とすれちがい、時々たわいもない話をして歩く。そんな中で、各地を渡り歩いているという行商人が、ふと漏らした。ちなみに、彼の背は小さかった。そういう一族なのだという。
「シャギュアに行ってきましたが、ちょいとヤバい感じですね。街全体が殺気立ってます。盗賊が暴れてるだかなんだかで」
彼と会ったのは三叉路で、その一つの道はシャギュアという街に向かう道だった。だからという訳でもなく、ただなんとなく、僕はシャギュアに向かうという道を歩きだした。行商人は、気をつけてとだけ言って先を急いでいった。去り際に、彼の故郷の珍味だという何かの干物をくれた。少し食べたが、後を引く味だ。
日が暮れたので、道を逸れて、草の中に寝転ぶ。荷物の中から毛布を引っ張り出して体にかけるだけでも十分暖かい。
そして僕は眠りに落ちる。いつも通りの事だった。
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