静かな予兆

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日が落ちてからすぐに寝て、その八時間程後。真夜中としか言えない時間帯に、僕は目を覚ました。 いつもこの時間帯に目を覚ましているとか、そういう訳ではなくい。勘だとか本能とか呼ばれる僕の中の獣達が、近づいてくる何かの気配を――そしてその目的を――告げていたからだ。 耳を澄ますと、背の高い草の向こうから草を踏みつける音が聞こえて来た。僕はその場で横になったまま、気配のほうに顔を向けた。草らしき影の間を、子供ほどの高さの影が横切っていった。 ……それだけで気配の動きは途絶え、あとは嵐の前であるかのように静寂がその場を支配している。 僕はその場でじっとしていた。その場から動く必要性を感じなかったし、何より、僕は何かとの劇的な邂逅を待ち望んでいた。それが僕の求める物だと信じていた。 静寂が続いている。それは気が遠くなる程長く、しかし僕には苦にならなかった。 旅の中で一日中その場で待ち続けた経験もあったから、そして邂逅を待ち望んだからだ。 一時間、一時間半、二時間……最早、何時間経ったのかも分からなかった。 僕が腕の位置を変えた時、遠くから鳴き声が聞こえた。それは何かの遠吠えとしか言いようが無く、深い哀しみを秘めていた。 再び草が揺れ音が鳴り、そしてまた静寂がその場を支配した。 まだ朝日は昇っていなかったが、僕は起き上がり毛布をしまって歩きだした。
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