時は文久、追われる世なり。

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  鳥の囀ずりが聞こえる、ちょっとした町外れ。そこに、ぽつんと建っている邸に一人の童がいた。 「ふんふんふーん」 童は鼻歌混じりに中庭の掃き掃除をする。 その姿はお世辞にも綺麗とは言えなかった。…つまり、小汚ない。 ボサボサの黒髪に継ぎ接ぎだらけの着物。頬には煤やら泥やらと、兎に角汚れていた。 「すみませーん」 「あ、はーい」 童はその格好を気に止める風はなく、表から聞こえた声に顔を上げた。 箒を置いて、門に駆けつける。 「はい、何のご用でしょうか?」 「え、は、はい…あの…文なんですが…」 にっこり微笑みながら目の前に現れた童に、飛脚は唖然としながら言葉を紡ぎだす。 その格好が格好なだけに仕方がない。 「文…?誰にでしょう」 「あ、えーっと…キュウカイ様宛です」 「ああ!では、こちらで間違いありません。ありがとうございました」 「い、いえ…失礼します…」 おどおどしながら文を渡して、早々と去っていく飛脚。 童はそんなの慣れっこなのか、全く気に止める様子はない。 「はぁー誰からだ?親父が今ここにいるのを知ってるのは極僅かだが…」 送り主が気になる文を懐にしまって、置きっぱなしの箒を取りに戻る。
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