時は文久、追われる世なり。

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  文の表裏には差出人の名前が無かったので、童は誰からなのかも分かっていない。 非常に気になっていたのだ。 文にはこう書かれていた。 『拝啓。お久し振りです、キュウカイ殿。逃亡生活の調子は如何でしょうか?私は相変わらず、変装で乗りきっています。いやぁ、至極愉快です。……今回、筆をとったのは貴殿にお伝えしたいことがある故です。直接にお伝えしたいため、明日の正午に長州藩邸まで出向いて頂きたく存じます。その節、娘さんにはご内密に…キュウカイ殿一人で来ていただけると有難いです。敬具。木圭』 「…………」 娘さんには内密に。って書いてあるんだが…バッチシ読みましたけど? 童は無言でちらりと男に目配せをした。 「おりょ~、桜花には内密にせんといかんらしいのぉ。はははっ、もう遅いぜよ!」 「…いいのか?これ、桂さんだろ?」 この畏まっている様でふざけてる文体。と童は呟く。 男は無言でボリボリと頭を掻いた後、文を折り畳んで言った。 「問題ないちや!……多分」 「…………あっそ…」 幾分慣れたとはいえ、頼りない男の言葉に童は呆れることしかできなかった。 「すみませーん!」 男が文を懐に仕舞ったとき、誰かの声が聞こえた。 二人は黙って顔を見合わせる。 先程、飛脚は来たし、こんな町外れに訪ねてくる人など滅多にいない。 ……もしかして…!
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