225人が本棚に入れています
本棚に追加
文の表裏には差出人の名前が無かったので、童は誰からなのかも分かっていない。
非常に気になっていたのだ。
文にはこう書かれていた。
『拝啓。お久し振りです、キュウカイ殿。逃亡生活の調子は如何でしょうか?私は相変わらず、変装で乗りきっています。いやぁ、至極愉快です。……今回、筆をとったのは貴殿にお伝えしたいことがある故です。直接にお伝えしたいため、明日の正午に長州藩邸まで出向いて頂きたく存じます。その節、娘さんにはご内密に…キュウカイ殿一人で来ていただけると有難いです。敬具。木圭』
「…………」
娘さんには内密に。って書いてあるんだが…バッチシ読みましたけど?
童は無言でちらりと男に目配せをした。
「おりょ~、桜花には内密にせんといかんらしいのぉ。はははっ、もう遅いぜよ!」
「…いいのか?これ、桂さんだろ?」
この畏まっている様でふざけてる文体。と童は呟く。
男は無言でボリボリと頭を掻いた後、文を折り畳んで言った。
「問題ないちや!……多分」
「…………あっそ…」
幾分慣れたとはいえ、頼りない男の言葉に童は呆れることしかできなかった。
「すみませーん!」
男が文を懐に仕舞ったとき、誰かの声が聞こえた。
二人は黙って顔を見合わせる。
先程、飛脚は来たし、こんな町外れに訪ねてくる人など滅多にいない。
……もしかして…!
最初のコメントを投稿しよう!