―12歳 扉の向こう―

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泣きながら何度も何度も目をこすって歩いていると、DJが座ってるのが見えた。 俺はそのまま向かう。 歩いて、歩いて、立ち止まった。 DJが俺を見上げた。 その無表情な顔を見て、突然吐くみたいに、熱い何かがワッと駆け上ってきた。 「ご……ごめ、んっ!」 引きつるような声と一緒に、ドバっと涙が出た。 熱い、熱い胸が苦しい。 沸騰した頭が痛い。 息が吸えない。 何も見えない。 なんにも、なんにも…… 「なんでお前が謝るんだよ」 戸惑いが滲んだような声が響いた。 「だ、って、だって、……お、俺だけ、泣いて、る、から」 ちくしょう、と言ったけど、鼻水をすする音と同化してしまった。 息を止めて、それから息を吸って、一生懸命止める。それでも、どこからか出てくる。後から、後から。 耐えきれなくなって、左の拳で自分の胸を叩いた。 「お、おい、止めろ!」 DJが慌てて立ち上がった。 俺の腕を掴もうとして、途中で止めた。 叩くと涙がバタバタと勢い良く落ちて行った。 ぼやけた視界が一瞬クリアになって、あいつの白い拳が見えた。 その拳を下ろして、あいつははっきりと言った。 「別に謝ることじゃない」
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