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少女の瞳が、それでも今までの時間に縋るように少年たちに向けられる。しかし、彼らは目も合わせない。一方は困ったように、もう一方は心底苛ついたように顔を背けていた。
そこにはもう一緒に遊んだ彼らがいないことを唐突に知る。視界が涙で孕んだ。
プラチナの少年は一瞬顔を歪めて、それからためらいもなく部屋を出て行ってしまう。
茶髪の少年は彼の名前を呼びかけたが、すぐに口を閉じた。
通り際に見えた彼の顔が、泣きそうなほど無表情だったから。
目の前の少女が、彼の"拒絶"に激しく泣いているから。
少年はそっと、あえて痛む右腕で少女を抱き寄せた。
その肩にあるのは、少女を守った傷。
それと同時に、少女を闇に突き落とした傷。
ブルブルと震えるのは、痛みと、喩えようのない悲しみ。
少年は歯を食いしばって泣いている。
言えない"さよなら"を、彼の体格より遥かに小さい少女と一緒にしまい込むように――ただ、抱き締めていた。
やがて引き取るように少女を抱き締めた新しい母親に託し、少年も部屋を出た。
それが、10年前の出来事だった。
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