―12歳 扉の向こう―

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目的を忘れて、俺はただ廊下の突き当たりに見えるプレイルームのドアを見ていた。 窓から差し込む日差しに埃が舞う。 悲しみはひどく静かで、綺麗だった。 ずっとずっとここにいて、シェリーを待っていたいくらい。 それでいて、早く立ち去りたいくらい。 誰かのことを思う苦しさは、静けさの中の波紋に似ている。 求める相手がいることの、甘い苦しさ。 それはきっと、恋の痛みだったんだろうと思う。 それが至福の痛みということに、俺は気付いていなかった。 柔らかい笑顔、苛立って仕方ない泣き声。 文句を言えば、言い返してくる。 その強気な瞳で、何度も、何度でも―― 首からかけた指輪を、服の上からぎゅうと掴んだ。 小さく息を吐く。 ここにいたら、意味はないんだ。 もう立ち上がろうとした時。 ドアが、突然開いた。 内心待っていた、そのドアが。
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